ビジネスとしてのロック音楽(1980年代)

ロック音楽による世界救済

「バンド・エイド」は、ボブ・ゲルドフが1984年飢餓に苦しむエチオピアの人々をニュースで見たことがきっかけで生まれました。楽曲を売って、その収益を飢餓問題解決のために役立てようという趣旨でした。

この趣旨に賛同したのは、スティング、ボノ(U2)、ジョージ・マイケル、ボーイ・ジョージ(カルチャー・クラブ)、デュラン・デュラン、スパンダー・バレエといった英国のアーティストたちでした(賛同メインバーは一部抜粋)。このメンバーが一つずつのパートを担当し、みんなで歌い上げたのがその年の12月に発売された「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」でした。結果、この曲は世界中で支持され、記録的な大ヒットになります。

この成功に触発された米国のアーティストたちも同じように立ち上がります。賛同メンバーのボブ・ディラン、B・スプリングスティーン、マイケル・ジャクソン、スティービー・ワンダー、シンディー・ローパー、レイ・チャールズといった豪華メンバー(賛同メンバーは一部抜粋)を迎え、その翌85年に「U.S.A. for Africa」というユニット名で「ウィー・アー・ザ・ワールド」を発表し、これもまた圧倒的な支持を得ました。

1985年7月、この2国が協力し、"ライブ・エイド" を開きました。主催者のボブ・ゲルドフは公然と "金集めのためにこのライブを行う" ということを明言しているとおり、募金を募るという目的のために開催されました。

このチャリティ・コンサートや一連の運動は80年代の大きなイベントだったのですが、このアフリカの貧困をもたらしたのは、手を差し伸べているその本人たちである、という自己矛盾をもたらしたのもまた事実でした。

このチャリティの功績をたたえられ、ボブ・ゲルドフはノーベル平和賞の候補になります。しかし、実際には受賞出来ませんでした。これがその当時のロック音楽の限界であり、どんなに影響力があろうとも、社会的にはまだまだ認められていない、という事実を思い知られることになりました。


MTVとビジュアルの時代

1981年、バグルスの「ラジオスターの悲劇(Video Killed the Radio Star)」とともに音楽専門のケーブル放送チャンネル "MTV" が始まりました。ビジュアル化の時代到来です。

MTVではビデオ・クリップをチェーン・リクエストで流すというスタイルで進行します。アーティストたちは曲のイメージを映像化し、リスナーたちに視覚的にも訴えるようになってきました。今まではラジオという音楽のみだったのが、テレビという映像をも伴う時代になったのです。この最初のチューンが「ラジオ・スターの悲劇」という曲だったというのは、なんとも皮肉なことです。

そして、ヒット曲の形態にも変化が訪れました。どんなにいい曲でも、印象的なビデオ・クリップを創れなければ "売れない" 時代になったのです。アーティストは大金をつぎ込み、印象的なビデオ・クリップをチェーン・リクエストします。そして、テレビという媒体を通じたロック音楽は、大量生産、大量消費の時代へと突入していきました。


大量生産、大量消費と産業ロック

MTVの流行はロック音楽の音作り自体にも産業ロックという形で影響を与えました。音楽的には映像と絡み合うような情緒的なメロディ、ドラマティックなアレンジといった派手な演出が特徴的でした。代表的なアーティストとしてはフォリナー、ボストン、ジャーニー、トトなどが上げられますが、彼らはいずれも高い音楽性があったにも関わらず、商業ベースにのった音楽性だったために、"産業ロック" といわれ揶揄(やゆ)されてしまいます。

また、80年代の特徴として上げられるのがメッセージ性の欠如です。60年代、70年代とロックは常にティーン・エイジャーの不満のはけ口といった側面を持っていました。ところが、80年代になると、そのメッセージ性は影をひそめてしまいます。これはベトナム戦争の敗北およびウォーター・ゲート事件がたぶんに影響したことにより、アーティストたちが社会に対して幻滅したからともいわれています。


ハード・ロックの復活

80年代の後半、日本はバブル景気の真っ只中でした。一方米国やヨーロッパは大不況であり、若者でさえもが失業していきました。そのような不安な時代の中、人々の心のなかに不満や怒りが芽生えてきました。その人々の心がハード・ロック(または、ヘビィ・メタル)を復活させました。

80年代後半に、ボン・ジョビィ、ガンズ・アンド・ローゼズというビック・アーティストが登場してきます。アメリカン・ハード・ロックの王道を行くボン・ジョビィと、レッド・ツェッペリンの80年代版のガンズ・アンド・ローゼズの大ヒットは停滞していた音楽業界に活をいれ、さらには来る90年代へのエネルギーへとなっていったのでした。そして、その勢いはよりヘビーなヘビィ・メタルをも復活させていきました。

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