ビリー・ジョエル [Billy Joel]

路上の傍観者

ビリー・ジョエルの音楽家としての活動は早く、14歳でプロのアーティストとして活動を始めます。そして21歳でソロとしてデビューしました。サウンド的にはポップで耳障りのよいメロディでありながら、都会に住む人々の姿を描いた社会的メッセージ性の強い歌詞が特徴でした。

彼のスタンスとしては「傍観者」という表現が良く使われます。初期の頃の「路上の傍観者」、中期の「アメリカの傍観者」といったように時代時代でその立居は変わるものの、常に客観的に社会を見つめた歌詞のスタンスは変わりません。そして、その見つめる世界は、アーティストとして成長するにつれ拡大されてもいきました。

そのほか、賞賛とともに彼の音楽的な特徴としてあげられるのがそのチャレンジ精神です。ほとんどのアーティストが一旦成功すると、そのスタイルに固執しその後の発展がなくなるのに対し、彼は常に新しいサウンド、新しいスタイルを追い求めて行きました。ただし、その根底には最も影響を受けたビートルズが常にベースとなっています。

アーティスト

ビリー・ジョエル(1949年5月9日、ニューヨーク州ブロンクス生まれ)

ヒストリー

ビートルズとの出会い

3才からクラシック・ピアノのレッスンを受けていたビリー・ジョエルにとってエルビス・プレスリーとの出会いは衝撃的でした。クラシックそっちのけでロックン・ロール、ソウル、R&Bへと傾倒していきます。

その当時はエルヴィス、レイ・チャールズ、ジェイムス・ブラウンなどがアメリカで人気があり、ビリー・ジョエルも彼らを愛聴していました。ところが英国からビートルズがやってくると、彼の心は完全にビートルズへと惹かれていきました。そのビートルスの影響で、彼はロック・アーティストを目指すことにし、クラブのピアノ・マンとしてそのキャリアをスタートさせました。

2度の挫折

1968年、ビリー・ジョエルはザ・ハッスルズ(←すごいネーミング!)というバンドでプロ・デビューしました。しかし、バンドは売れませんでした。結局彼は、評論家としての仕事を掛け持ちすることで生計を立てます。その後1971年、事実上のソロ・デビュー・アルバムとなる『コールド・スプリング・ハーバー』を発表します。しかし、これも結局売れず、彼は休養もかねてハリウッドに移り住むことになります。ハリウッドに移ってからは、ビリー・マーティンという名でピアノ・バーに出演して暮らしていました。

その当時彼にとってはあまりにも多くの時間があり、その有り余った時間でかなりの曲を書いたそうです。それが後のソング・ライティングの糧になったといわれています。

しばらく曲作りに専念した後、1973年『ピアノ・マン』で改めてデビュー。このアルバムによってビリーの才能は広く認められることとなり、またこのアルバム・タイトルから彼は"ピアノ・マン"というニック・ネームで呼ばれるようになりました。

アメリカ横断の旅

『ピアノ・マン』の成功を機にビリー・ジョエルはもう一度ニュー・ヨークに戻ります。そのときの心境をつづったのが『ニューヨーク物語』です。このアルバムからはライブでも有名な「さよならハリウッド」「ニュー・ヨークへの思い」などのヒット曲が生まれます。このロード・ムービーのようなアルバムは旅の情感豊かに表した力作だったため、人によってはこのアルバムこそがビリー・ジョエルのベストという人もいるほどでした。

もう見知らぬ人は誰もいない

前作『ニューヨーク物語』で予感がしたビリー・ジョエルにもついにブレイクのときが訪れます。1977年発表の『ストレンジャー』は爆発的なヒットになり、一気に彼の名は世界中に知れ渡りました。また、このアルバムの収録曲「素顔のままで」は、1978年の第21回グラミー賞に於いて最優秀レコードと最優秀楽曲賞を受賞し、名実ともにスーパー・スターへの階段を駆け上っていくことになりました。

そして、その翌年には『ニューヨーク52番街』をリリース。自身初の全米No1を獲得します。このアルバムで第22回グラミー賞の最優秀アルバムと最優秀男性歌手賞を受賞、そのアルバムもビルボードの年間チャート1位を獲得しました。

その2年後の1980年には、『グラス・ハウス』をリリース。これもプラチナ・ディスクを獲得、「ロックン・ロールは最高さ」の全米No,1を始め、「ガラスのニューヨーク」など計4曲の大ヒットが生まれます。

このように1970年代後半はビリー・ジョエル一色といってもいいほど、彼自身がブレイクした時期といえるでしょう。

社会派ビリーへの変身?

1980年代に入ると、ビリー・ジョエルは社会派へと転身します。82年に発表された『ナイロン・カーテン』はアメリカ社会の暗部を浮き彫りにした内容で賛否両論となりました。結果一部の昔ながらのファンを失なったことや社会派のアルバムで精神的に疲れたこともあり、次作の『イノセント・マン』はかなり軽いノリの作品なります。これは自分のルーツであるロックン・ロールをビリー風に仕上げた作品で、「あの子にアタック」を始め、6枚のシングル・ヒットを記録しました。これでもともとのファンも戻り、一段落となります。やはり、ビリー・ジョエルには社会派は無理だったようですね。

心の傍観者へ

80年代後半にはベスト盤等を発表したビリー・ジョエルですが、90年代に入ると今度は人間の内面についての曲を書くようになります。ストリートの傍観者から始まって、社会の傍観者、そして心の傍観者へというわけです。人によっては彼の才能は80年代で尽きてしまったという人もいます。確かにヒットという面ではそれは当たっているかもしれません。また、名盤という意味でもそうです。しかし、彼にとってはそのチャレンジが大切なのであって、結果ではないのかもしれません。彼の90年代の曲を聞いているとそんな気がします。


代表的なアルバム

ストレンジャー [The Stranger]

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ビリー・ジョエルの出世作といえる本作は、都会に住む人々の孤独を表した作品となっています。アルバム・ジャケットでビリー・ジョエルが見つめている無表情の仮面は都会に住む人々を表しており、その仮面の向こう側を見つめている彼の視点がそのままこのアルバムのコンセプトになっています。代表曲「ストレンジャー」と「素顔のままで」。この仮面の外と中を歌った2曲をあえて並べ、ビリー・ジョエルは何を表現したかったのか。彼の意図を汲んでほしいと思います。

また、村上龍の

で女の子が "この口笛を聞くとよく寝れるのよね" といっていた「ストレンジャー」のイントロの物悲しい口笛(ビリー本人)。本当に絶品です。この口笛を聞くと、自分が見知らぬ街の真夜中のビル街でぽつんと一人ぼっちで立っている、そんな切ない気持ちになってしまいます。

ニューヨーク52番街 [52nd Street]

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ニュー・ヨーカー、ビリーのジャズ・テイストとロック・テイストがうまく溶け合ったグラミー賞受賞作です。このアルバムは前作「ストレンジャー」と対になっているといった感があります。「素顔のままで」と「オネスティ」、「ストレンジャー」と「マイ・ライフ」。曲の内容等は異なるものの、曲調としては同じ部類入るといってもかまわないでしょう。『ストレンジャー』が流れるようなイメージだったのに対し、この『ニューヨーク52番街』はリズム的にカチッとした感じがします。全体的に力強いといったらよいのかもしれませんね。前作で表現した仮面というものをはがした今作。内面への洞察が感じられる作品に仕上がっています。

イノセント・マン [An Innocent Man]

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ビリー・ジョエルのルーツである50年代、60年代の音楽へのオマージュとして作成された本作。今までの路線とは少し趣が違うのですが、それでもビリー節であることに変わりはありません。アップ・テンポのオープニング・ナンバー「イージー・マネー」から「キーピン・ザ・フェイス」まで、ご機嫌なロックンロールを聞かせてくれます。

このアルバムについては何を言えばいいか分かりません。あえて言えば "全部いい!"

うーん、はっきり言って、全然レビューになっていませんね。 ......でもそれくらいいいのです。個人的にはこれがビリー・ジョエルのベストだと思っています。

とくに一人でアカペラをやった「ロンゲスト・タイム」、愛する人と二人だけで部屋で踊りたい(←僕には恥ずかしくてできません)「今夜はフォーエバー」、ポップ・チューンの「あの娘にアタック」(←タイトルまで昔っぽくて素敵ですね)やダウンタウンに住む男の子がお金持ちの女の子に恋する「アップタウン・ガール」などなど....... 挙げていったらたぶん全部になっていまいそう。

本作を聴いているとすべてがノスタルジックなおとぎ話のように、セピア色の世界が広がるように感じます。ノスタルジーに身をゆだね、すべてが輝いていた少年少女時代の甘酸っぱい"無垢"な頃の思い出にぜひ浸ってください。

ニューヨーク物語 [Turnstiles]

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前作『ピアノ・マン』で成功したビリー・ジョエルが再びニュー・ヨークへ戻る過程を描いたロード・ムービーのようなアルバムです。ウェストコーストに別れを告げる「さよならハリウッド」に始まり、終点であるイーストコーストに辿り着きくつろぐ「マイアミ2017」までの全8曲で構成されています。

このアルバムには「さよならハリウッド」を始め、いまやジャズのスタンダードにもなった感のある「ニュー・ヨークへの思い」や「怒れる若者」など、彼自身が表現したかったことがセルフ・プロデュースのおかげで満載されています。ちなみにこのアルバムは彼自身もかなり気に入っているようです。

CDだと小さくて分かりにくいのですが、このアルバムに写っている人々はこのアルバムのそれぞれの主人公です。虚飾に生きる人、ひげ顔の若者、本を抱えた青年、マリリン・モンロー風の少女、サングラスを掛けた青年、そして老婦人と子供。これらの人々がどの歌の主人公なのかのは、歌詞カードを見ながら想像してください。

ちなみに "Turnstiles" とは「回転式改札口」のことで、ここを基点にすべての物語が始まり分岐していくということをあわしているようです。

グラス・ハウス [Glass Houses]

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グラミー賞では最優秀男性ロック歌手賞を受賞するなど、ロック・シンガーぶりを如何なく発揮した作品。全米1位、年間チャートでも4位を獲得するなど、1985年を代表する一枚となりました。

アルバムはまずガラスの割れる音で始まる「ガラスのニュー・ヨーク」で幕を開けます。とにかくこのアルバムはロック色が強いというのが特徴です。それは「ロックンロールが最高さ!」といっていることからもビリー・ジョエルのこのアルバムに対する姿勢が汲み取れます。

ロック色の強い「1.ガラスのニューヨーク」「2.真夜中のラブコール」「4.ロックンロールが最高さ」「7.チャンスに賭けろ」が並ぶ中、これぞビリー節といった「3.ドント・アスク・ミー・ホワイ」や「6.孤独のマンハッタン」、フランス語の歌詞がいい雰囲気の「8.愛の面影(セテ・トワ)」やラストの「10.ロング・ナイト 」。うまくミックスしていい味が出ています。

ちなみに、このジャケットのグラス・ハウスは当時のビリー・ジョエルの自宅だそうです。撮影中調子に乗りすぎて、実際にガラスを割ってしまったとか。

ナイロン・カーテン [The Nylon Curtain]

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ビックになったビリー・ジョエルが社会に目を向け、問題提起をした1982年の作品です。鉄をたたく音で始まるさびれた街の貧しい生活を描いた「アレン・タウン」、いつも追い立てられ抑圧された現代社会の歪みを表現した「プレッシャー」、ベトナム帰還兵の後遺症に苦しむ心情を歌った「グッドナイト・サイゴン」など、その後のベスト・アルバムにも収録された有名な曲が収録されています。

作品自体としては、現代社会の暗部を写す鏡というコンセプトのもと非常によくまとまった作品だと思います。しかし、それを表現したのがビリー・ジョエルであったということ自体が失敗だったのかもしれません。リスナーの求めているのは社会派のビリーではなく、ナイーブな傍観者としてナイーブに歌うビリーだからです。これをブルース・スプリングスティーンが創っていたとしたら、曲自体もっとハードになるかもしれませんが、かなりの大ヒット・アルバムになったかもしれませんね。

ちなみに(←ちょっと、このフレーズ気に入っています)、1曲目の「アレン・タウン」ですが、当時のその町の市長がこの曲を町の歌にしようと稟議にかけたようです。結果は "この内容だとわしらの街がさびれて落ちぶれていっとるように思われるからいやじゃ!" ということでお流れになったそうです。この市長としては、大ヒットした曲だからこれを自分の町の歌にすれば自分の人気も上がると思ったのでしょうが、市民のほうが冷静でしたね。だいたい自分たちの町が寂れていっているなんて歌を誰が好き好んで自分の町の歌にするものですか。ねえ、そう思いません? この市長はいったい何を考えていたんでしょう?

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