ボブ・ディラン [Bob Dylan]

時代の代弁者

デビューからしばらくはアコースティック・ギターによるフォーク・ソングを歌っていました。しかし公民兼運動の頃からエレクトリック・ギターに変え、フォーク・ロックへのそのスタイルを変更します。

彼の哲学的な歌詞は音楽という枠を越え、文化としても認められるほどその言葉言葉の深さを評価されています。また、その歌い方も特徴的で、小説家の村上春樹氏は「子供が雨の日に、窓辺でぶつぶつ外に向かって文句を言っているようだ」と表現していますが、さすが小説家、すごく良く分かる表現だと思います。

彼は、アメリカを代表するアーティストの一人として、デビュー以来多大な影響を同時代の人々に与えてきました。また、詩人としてはノーベル文学賞にノミネートされるほどであり、20世紀半ば以降の文化において極めて重要な位置を占めているといえます。

そして、そのフェイクしているのか、リズム感がないだけなのか良く分からないような歌声と、メッセージ性の強い批判と自己否定に富んだ歌詞は、時代を超え、30年経った今でも人々の心の深いところにある泉に波紋を広げるべく、小さな石を投げかけています。

ちなみに、ジョン・レノンが『ジョンの魂』のなかで歌った「神」という曲の中に出てくる、"I don't believe in Zimmerman."とはこのボブ・ディランのことです。補足まで。

アーティスト

ボブ・ディラン(1941年5月24日ミネソタ州ダルース生まれ)

ヒストリー

コーヒー・ハウス・シンガー

ボブ・ディラン、本名:ロバート・ツェマーマン(Robert Zimmerman)は、その名を詩人のディラン・トマスからとっています。ニューヨークのコーヒー・ハウスなどでアコースティックギターの弾き語りをしていたとき、ジョン・ハモンドに才能を見出され、1962年にアルバム『ボブ・ディラン(Bob Dylan)』でレコード・デビューしました。しかし、デビューしたての頃はトラッド・フォークやブルースを中心に歌っており、自作の曲はあまりなかったようです。

時代の代弁者

1960年代は公民権運動が盛り上がり、それが音楽業界にも影響を与えます。最初はトラッド・フォークを歌っていたディランでしたが、その歌は次第に社会に対する抗議や批判を含んだプロテスト・ソング中心となっていきました。そんなか、ムーブメントの中心になっていたボブ・ディランは「フォークの貴公子」として大きな支持を受け、時代の代弁者としてみなされるようになっていきました。この頃の代表的な曲としては、「風に吹かれて(Blowin' In The Wind)」、「時代は変わる(The Times They Are A-Changin')」などが挙げられます。

例え非難されようとも

1965年ごろからは、フォークにロックのリズムを持たせたフォーク・ロックへと傾倒していきます。このような移行をフォーク・ファンは非難しました。その例として、ニューポート・フォーク・フェスティバルでディランはバック・バンドを従えてステージに上がったもののファンからのブーイングを浴び、一旦ステージを降り、再度出てきたときにはフォーク・ギターを抱えて一人で歌ったそうです。

そんな事件はあったものの、ボブ・ディランはフォーク・ロックを続けていきます。そして、その頃には、『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム(Bringing It All Back Home)』、『追憶のハイウェイ61(Highway 61 Revisited)』、『ブロンド・オン・ブロンド(Blonde On Blonde)』などの彼にとって代表的な作品を次々と発表していきました。

巨大なロック産業に対するアンチテーゼ

60年代の半ばにオートバイ事故をおこしてからライブ活動は控えていたのが、70年代になると、ザ・バンドをバック・バンドに迎え、再度ライブ活動を再開します。そして、巨大産業化したロック・ミュージックに対するアンチ・テーゼとして、抜き打ち的にアメリカ各地の都市を訪れてコンサートを行う「ローリング・サンダー・レヴュー」と銘打ったツアーを行います。

ボーン・アゲイン・クリスチャンの洗礼

70年代後半、クリスチャンになったボブ・ディランにファンは衝撃を受けます。そして80年代になると、キリスト教色の強い作品を発表し、ファンの多くが彼から離れていきました。その後、1983年にはダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーをプロデューサーに迎えて製作した『インフィデル(Infidels)』を発表。こちらは宗教色があまりなかったため、従来からのファンを安心させることになりました。

ネヴァー・エンディング・ツアー

1985年にはアフリカ救済のチャリティ・コンサート「ライブ・エイド」に出演し、ラストをかざります。その後1988年に入るとツアーに出るようになりますが、それは終結宣言のされないツアーであり、2005年の今も継続中です(これはいつしかファンの間で「ネヴァー・エンディング・ツアー」と呼ばれるようになりました)。

転がる石のごとく

1990年代初頭新曲はもう書かないと宣言していましたが、1997年、7年ぶりにオリジナル・アルバム『タイム・アウト・オブ・マインド(Time Out Of Mind)』を発表します。そしてこのアルバムでグラミー賞「年間最優秀アルバム賞」を受賞します。

終わりのないツアーを続け、40年経っても血気盛んに曲を発表しつづけるディラン。この流浪の吟遊詩人は転がる石のごとく流れつづけています。


代表的なアルバム

追憶のハイウェイ61 [Highway 61 Revisited]

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次作『ブロンド・オン・ブロンド』とともにロック評論的には非常に評価の高い作品であるとともに、一般的にはあまり評価が良くない作品。どうしてそんな風に評価が分かれるのでしょう?

まず考えられるのが、リフレインの多さでしょう。「やせっぽちのバラッド」や「廃墟の街」で顕著なのですが、どの曲も一つのリフの繰り返しが多く、単調に聞こえてしまうのです。歌詞カードを見ながら聴いてみると分かるのですが、リフレインの多さはその歌詞の内容がそれを必要としているからなのです。しかし、ロックという観点から見れば、あまりにもリフレインが多すぎると確かに飽きてしまいます。

それにも関わらず、このアルバムは非常に素晴らしい作品です。フォーク・ロックである以上、歌詞というものに非常な重きがあるので、歌詞の韻や内容にそったメロディがつくのは必然の結果です。この作品を聴くときには歌詞カードをもって言葉一つ一つをかみ締めながら聴いてください。これは音楽である以前に詞であり、それを理解できたときこの作品の本当の姿が見えてくることでしょう。

血の轍 [Blood on The Tracks]

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70年代ディランの最高傑作とも呼ばれる、75年の作品です。このアルバムは、当時離婚寸前の状態にあったサラ・ディランとの心の葛藤から生まれたと言われています。そのためか内容的には人間不信や壊れた人間関係といった歌が多くしめています。

例をあげれば、このアルバムを代表するナンバー「ブルーにこんがらがって」。歌の内容は以下のとおりである。

男はうまくいかなかった元妻と離婚したが、どうしても彼女が忘れられない。そんなある日、トップレス・バーで働く彼女と再会し、男は昔のように振舞おうとする。しかし、元妻は彼のそばにくると言った、「あんたの名前、何だったっけ?」

その他にも、"あんたはばかだよ、息の仕方を知っているだけでも驚きだよ"と、つまらない噂を信じる人々に痛罵をあびせる「愚かな風」、「運命のひとひねり」や「おれはさびしくなるよ」、ディランの一人の人間としての苦悩や悲しみを表現した歌が続きます。

このように、多くの人が抱える生身の感情が刷り込まれた本作は、そうであるがゆえに多くのリスナーに愛聴される一枚となっています。

ブロンド・オン・ブロンド [Blonde on Blonde]

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60年代を代表する一枚でもあるボブ・ディラン7枚目の作品です。音楽評論家の間ではこの作品がボブ・ディランのマスター・ピースと評価されている場合が多いようです。

アルバムを通して、曇りの日の気だるさといったイメージがあります。全体的にのっぺりとしたサウンドですが、このアルバム自体サウンドよりも詞の世界に重きが置かれています。サウンド的にはカントリー・ロックに近いといった感じです。

もともとボブ・ディランのアルバムは詞のほうに重きがおかれているのですが、本作はその傾向が特に強くなっています。音楽というよりは"詩"といったほうが良いかもしれません。輸入盤より対訳つきの日本盤のほうがより良さを認識できます。

ナッシュヴィル・スカイライン [Nashville Skyline]

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1969年発表の本作は、はっきり言ってカントリーです。カントリー・ロックでなくカントリーです。この作品の中でディランは、あの独特のだみ声でなく、美声で歌っています。それほど声質が違っているのです。多分、このレコーディングの時風邪をひいていたのかもしれません。

このジャケットも変です。いつもは苦虫をつぶしたような不機嫌な顔をしているのに、このさわやかな笑顔。最初このジャケットを見たとき、「この人は誰ですか?」と思いました。多分、写真撮影のとき風邪をひいていたのかもしれません。

本人の談によると、

「攻撃的な歌を歌いすぎて疲れた。スタンダード・ナンバーを歌うシンガーのように歌いたかった」

だそうですが、実際まだ青年だったのですから仕方ないのかもしれません。でもだからといって牧歌的なカントリーまで行くことはないと思うのですが(カントリーが悪いというわけではありません、念のため)、やっぱり心の風邪をひいていたようです。

このように、本作は今までのボブ・ディランと違うということで、賛否両論となりました。しかし全米で3位を記録するなど、結果としては商業的には成功したアルバムとなりました。本作の8曲目で「嘘だといってくれ」と歌っていますが、昔からのファンこそ本作は"嘘だといってくれ"だったのかもしれませんね。

時代は変わる [The Times They Are A Changing]

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ボブ・ディラン3枚目の本作は、プロテスト・シンガー"ボブ・ディラン"を確立した一枚となりました。メッセージ性の強い曲が目白押しの本作では、この後のロックへと転換を感じさせるダイナミックな音使いが取り入れられていきました。

「俺たちのことが分からないなら、黙っていてくれ。時代は変わりつづけるんだから」

そう歌ったタイトル・ナンバー「時代は変わる」、人種差別の悲しい事件を歌った「ハッティ・キャロルの寂しい死」、神に対する姿勢を歌った「神が味方」など、ボブ・ディランの戦う姿勢が前面に押し出されています。

社会という大きな壁に向かって戦いを挑んだボブ・ディランの苦悩と苦痛が感じられる一枚であり、その苦悩はジャケット写真にも現れています。彼にとっても、このアルバムは今後のフォーク・ロックへの転機ともなるターニング・ポイント的なアルバムになりました。

欲望 [Desire]

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スカーレット・リヴェラによるバイオリンが印象的な1枚です。本作はローリング・サンダー・レビュー・ツアーの最中に発表され、結果として全米1位を獲得しています。サウンド的にはハードからメロウまでバラエティに富んだつくりになっており、飽きずに最後まで聴くことが出来ます。

まず1曲「ハリケーン」。これは実在する黒人ボクサー、ルービン・カーターのニックネームです。このハリケーンは人種差別の渦の中、明白な冤罪事件でありながら無実の罪で刑に服することになり、ボクサー生命を失ってしまいます。ボブ・ディランはその不正への怒りをこの曲にたたきつけています。

「正義がただのゲームになり下がったこの国に生まれたなんて、これ以上恥ずかしことがあるものか!」

そう言って終わるこの曲には、警察とグルになって証言した者の実名も出ています。訴訟になることも恐れないこの姿勢一つとっても、この事件に対する彼の怒りがどれほどのものであったか分かります。また、この事件については、「ザ・ハリケーン」というタイトルで映画化されていますので、興味のある方は見てみるのもいいかもしれません。非常にいい映画であることは保証します。

他にもストリート・ギャング、ジョーイーの悲しい半生を綴った「ジョーイー」。愛というものの悲しい面を感じさせる曲であり、一人の女性への思いを切々と歌い上げる「サラ」など、心の琴線に触れるような悲しい曲が続きます。

人間の奥深くに潜む醜い"欲望"というものに焦点をあてた本作は、聴くものの胸に正義という名のナイフを突きつけてきます。かなりタフな作品であるといえるでしょう。

ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム [Bringing It All Back Home]

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フォークからロックへと転換していく過渡期に作られた本作。もともと最初に手にしたギターがエレクトリック・ギターだったことから、原点回帰という意味もこめてこのタイトルがつけられたと言われています。アルバムの前半はエレクトリック・サウンド、後半はアコースティック・サウンドといった構成になっています。

さ迷う魂を情感豊かに綴る「ミスター・タンバリンマン」、社会に対する批判を並べた「イッツ・オールライト・マ」、"すべては終わった、新しいマッチを擦ってもう一度最初から始めよう、ベイビー・ブルー"と歌う「イッツ・オール・オーバー・ナウ,ベイビー・ブルー」といった洞察力あふれる作品が並びます。

"彼女は沈黙のように喋り・・・・  彼女は花のように笑う・・・・  失敗みたいな成功はない・・・・"

このように、アルバムの中で最も素晴らしく深い意味をもった歌詞が出てくる「ラヴ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」。このタイトルからして意味深の曲は、このアルバムの中で有名な「ミスター・タンバリンマン」の影に隠れていますが、このアルバムを代表する曲と言っても過言ではない良い曲だと思います。この一曲のためだけにこのCDを手に入れるに値する曲でしょう。

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